加熱して臭いを消したにんにくは効能や効果も消えるのか?
にんにくの臭いを消す代表的な調理法は「にんにくを丸ごと加熱する」ことです。(このことに関する詳細はこちら「加熱調理でにんにくの臭いを消す方法」を参照下さい。)
この方法では手軽に臭いを消すことができてしまうため、「にんにくの有効成分が加熱する前と同じ状態であるわけがない」と推測できます。そうすると「にんにくの臭いが無くなるのはいいが、効能や効果も無くなってしまうのでは?」という疑いが浮かんでくることになります。
この疑問に関してはかなり以前から言われているにも関わらず、残念ながら本格的に研究はされていないようです。研究論文や特許文献、科学雑誌等を調べてもこのことを明確に証明しているものを見つけることができませんでした。
よって、現状では「にんにくの臭いが消えると効能や効果も消えるか否かは分からない」と言わざるを得ません。
しかし、加熱によるにんにくの成分変化や体内での代謝等に関してはかなり解明されているので、それらの情報を多角的に検証することである程度の結論を推測することができます。
ここではそういった事を詳しく説明していますので、ご興味があればご覧ください。尚、結果だけ知りたい方は以下の目次項目の「結論」をクリックして頂ければと思います。
加熱することで消える有効成分
食品に含まれる栄養成分には熱に弱いものが多くあります。にんにくに含まれる有効成分も熱によって失われるものがあります。具体的には次のような成分です。
アリシン
加熱の影響が大きいのはアリナーゼという酵素物質に対してです。アリナーゼはにんにくに含まれるアリインを分解してアリシンという物質を発生させる働きがあります。
このアリシンはにんにくの臭いの原因物質であると同時に効能や効果における有効成分でもあります。
にんにくを加熱するとアリナーゼは破壊され、アリインからアリシンを発生させることができなくなります。
つまり、にんにくを加熱することでにんにくの臭いも無くなりますが、アリシンという有効成分も無くなってしまうのです。
ビタミン類
あまり語られませんが、にんにくはいくつかのビタミン類が多く含まれており、それらも効能や効果の一因となっています。
ビタミン類は熱に弱いものが多いため、にんにくを加熱することで完全には無くならないものの大幅に減少します。
加熱によって減少が想定されるにんにくのビタミンは次の通りです。
ビタミンB1
ビタミンB1は糖代謝に大きな影響を及ぼす補酵素で、「疲労回復」や「脳機能の活性化」「美肌」「粘膜の強化」などの効果があります。
にんにくの最大の効果はアリシンがビタミンB1と結合することで、ビタミンB1の効果を大幅に強化するところにあります。
しかし、加熱によってアリシンもビタミンB1も失われてしまうため、この効果の低下は避けられないと考えられます。
ビタミンB6
ビタミンB6はにんにくに多く含まれるビタミン類です。ビタミンB6はたんぱく質の代謝に欠かせない物質で、「体力の維持・向上」や「美肌」「粘膜の強化」「免疫力の強化」などの効果があります。
また、肝臓内での脂質代謝をサポートする物質でもあり、にんにくの効能である「コレステロール抑制効果」や「肝機能強化」などに関係していると考えられるため、これらの効果も低下すると推測できます。
ビタミンC
ビタミンCは強力な抗酸化作用を持ち、またコラーゲン生成に必要なため「美肌」や「アンチエイジング」に効果的と言われています。
ビタミンCは熱に弱い代表的なビタミンでもあるので、これらの効果を低下させる要因となります。
効能・効果に対する2つの見解
加熱することによるにんにくの効能や効果に関しては大きく2つの見解があります。
1.加熱すると効能や効果は失われる
一番の有効成分であるアリシンが産生されず、ビタミン類も減少するわけですから、当然「にんにくの効能や効果も無くなる」という見解です。
ただし、これらの成分が完全に無くなる(産生されなくなる)にはかなりの加熱が必要なため、実際にはいくらかの量が残り、その分の効能や効果は期待できると言えます。
つまり、「効能や効果は消えないもののかなり弱くなる」という見解に至ります。
2.加熱しても効能や効果は変わらない
ネットなどで「加熱してもにんにくの効能や効果は変わらない」という情報を度々見かけます。それらの論理は大方次の通りです。
「にんにくに含まれるアリナーゼは加熱によって壊れてしまうがアリインは残っている。体内にはアリインをアリシンに変える酵素があるため、加熱したにんにくを食べると体内でアリシンが産生され、通常のにんにくと同じ効能や効果を得ることができる。」
私が確認した範囲ではこれらの情報に関する出所が明らかにされていないため、この論理の真偽性は不明ですが、ある程度の信憑性はあります。
アリシンはアリインが分解することによって産生されます。アリナーゼの役割はアリインを「分解する」ことです。
このアリナーゼの「分解する」働きと同じ役割を持っているのが、前述した「体内でアリインをアリシンに変える酵素」ということになります。
この酵素というのは一つではないでしょうが、概ねビタミンB6のことを指していると思われます。
ビタミンB6は殆どのアミノ酸を代謝する働きがあります。アリインもアミノ酸の一種であるため、代謝(この場合は分解)され、その結果、アリシンが産生されることは十分に考えられます。
アリシンが産生されるのであれば、「にんにくの効能や効果は変わらない」という論理は理解できます。
しかし、にんにくの効能や効果はアリシンが更に変化したアホエンやジアリルトリスルフィド(DATS)などに起因するものも多くあります。
これらの変化が同様に体内でも起きると考えるのは少し無理があります。また、前述したビタミン類に関する効能・効果は確実に低くなると考えられます。
結論
にんにくを丸ごと加熱するとアリナーゼが壊れ、アリインからアリシンが産生できなくなります。アリシンは効能・効果の大元となる成分です。
また、同じく有効成分であるビタミンB1、ビタミンB6、ビタミンCなども熱に弱いため減少します。
このようにニンニクの主となる有効成分が大幅に無くなってしまうため、効能や効果も無くなってしまうことが想定できます。しかし、そのことが証明されているわけではありません。
ある見解では体内の酵素(恐らくビタミンB6)がアリインを代謝し、アリシンを産生させるため効能・効果に変化は無いと言います。この見解にはある程度の信憑性があります。
しかし、にんにくの効能・効果の多くはアリシンによるものですが、それ以外にもアリシンが複雑に変化した物質による影響も大きくあります。
それらアリシンの変化が体内で同様に起きるとは思えません。さらに、ビタミン類の減少はそのままであるため、その分の効果は確実に低下します。
また、体内でのアリシンの産生は緩やかになるため効果も緩やかになり、その分長く続くという傾向も考えられます。
まとめると次のように言えます。
加熱してもニンニクにおける殆どの効能や効果はそのまま期待できる。ただし、多くの場合、効果性は低下すると考えられる。
尚、あくまで想定ですが、効能・効果が低くなるものと変わらず期待できるものをまとめてみました。(あくまで私的な見解であり、臨床実験等の結果ではないことをご留意下さい。)
加熱によって低下する(もしくは無くなる)と考えられる効能・効果
- 血栓を作りにくくする効能
血小板凝集抑制作用は主にアリシンが変化したメチルアリルトリスルフィドやアホエンなどによる効能のため、かなり効果性は低くなると考えられます。 - 活性酸素を除去する効能
アリシン、ビタミンEに抗酸化作用があるので、かなりの効果が期待できますが、その他の抗酸化物質は減少するので若干効果は低下すると考えられます。 - 疲労回復効果
ビタミンB1の吸収は問題無いので、にんにく以外にビタミンB1を多く摂っている人には変化はないでしょう。そうでない人はにんにくに含まれるビタミンB1が減少するので効果も低くなると考えられます。 - コレステロール低下・抑制効果
この効果はアホエンやジアリルジスルフィド、ビタミンB6などアリシン以外の物質によるところが大きいので効果が低下することが想定されます。 - 血液サラサラ効果
- 高血圧予防・改善効果
- 動脈硬化予防・改善効果
- 冷え性改善効果
上記4つの血流に関する効果には多くの成分が関与しているため、熱による成分変化の影響を受けないとは考えられにくいと思われます。 - 食欲増進・食欲不振改善効果
これはにんにくの香りによるものですから、ほぼ効果は無くなると考えてよいでしょう。 - 消化促進・消化不良改善効果
この効果はアリシンによるものですが、体内におけるアリシンの産生は緩やかになるので、効果も緩やかなものとなると想定できます。ただし、その分、熱しない場合と比べて長時間効果が持続すると考えられます。 - 胃潰瘍・十二指腸潰瘍予防効果
この効果に関してはまだ不明な点が多くあるので、何とも言えませんがジアリルスルフィドが有効成分と言われる場合もあるので効果が低下する可能性があります。 - 肝機能強化・肝臓障害改善効果
ビタミンB1やビタミンB6、ビタミンCが関係するので若干ですが効果は落ちるでしょう。 - 二日酔い予防・改善効果
ビタミンB1が大きく関係するので効果は低下するでしょう。 - 癌(ガン)予防・抑制効果
アリシン以外の成分の影響が強いので効果はかなり低下するでしょう。事実、加熱したにんにくには癌に対する効果が無かったという研究報告もあります。 - アンチエイジング(老化防止)効果
アリシン以外の要素が強い上、ビタミン類が減少すると考えると効果の低下は免れないと思われます。 - 糖尿病予防・改善効果
糖代謝に大きく影響するのはビタミンB1です。その為、ビタミンB1が減る分の効果が低くなると考えられます。
加熱しても変わらず期待できる効能・効果
- 抗菌、殺菌および解毒を行う効能
抗菌・殺菌などの効能はジアリルトリスルフィド等にもありますが、もっとも強力と言えるのはアリシンなのでかなり期待できると考えられます。 - ビタミンB1の吸収を高める効能
これはアリシンの効能なので変わらず期待できます。ただし、ビタミンB1は減少するのでアリチアミンの産生量は減ると考えられます。 - 風邪・インフルエンザ予防効果
疲労などが関係する場合は低下する可能性がありますが、抗菌・殺菌作用はそれほど変化がないので効果は期待できるでしょう。 - 便秘・下痢予防・改善効果
これは主にアリシンと水溶性食物繊維による効果なので、変わらず期待できると思われます。 - 食中毒予防効果
アホエンやジアリルジスルフィドなども有効成分とされますが、アリシンやアリイン自体にも強力な抗菌・殺菌効果があるので効果はそのまま期待できるでしょう。
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