アリルメルカプタンとは?
アリルメルカプタン(Allyl Mercaptan)は、ネギ属植物に由来する硫黄化合物の一種で不快臭を持つことで知られています。
にんにくを食べた直後に「臭いっ!」と思ったら、その殆どはアリルメルカプタンの臭いと思っていいでしょう。アリルメルカプタンはにんにくを食べた直後ににおう悪臭の主要因です。
ちなみに、にんにくの臭いは1~2日間ほど続くと言われますが、アリルメルカプタンの臭いは最初の1時間程度で殆ど消えます。
アリルメルカプタンの臭いは長続きしないのでにんにく臭としては脇役です(主役はアリルメチルスルフィド)。
このページでは、そんなアリルメルカプタンの詳細をご説明していますのでご興味があればご覧ください。
アリルメルカプタンの基本情報
アリルメルカプタンのアリル(Allyl)とはニンニクに代表されるネギ属植物を意味し、メルカプタン(mercaptan)は硫黄原子を持つ化合物の一種を意味します。
メルカプタンと名のつく物質にはメチルメルカプタン、ブチルメルカプタンなど多数ありますが、ほとんどのものが「臭い」物質です。
アリルメルカプタンも他のメルカプタン類同様に「臭い」物質です。ただし、微量であれば香ばしい匂いと感じる人もいるようです。
アリルメルカプタンはタマネギなどからも生成されますが、とりわけニンニクからの発生量が多いためニンニク臭さを特徴づける物質と言えます。
◆英語名
allyl mercaptan
◆別名
アリルチオアルコール(Allyl thioalcohol)
2‐プロペン‐1‐チオール(2‐Propene‐1‐thiol)
プロパ‐2‐エン‐1‐イルチオール(Prop‐2‐en‐1‐yl thiol)
◆分子式
C3H6S
にんにくからアリルメルカプタンはどのように発生するか?
アリルメルカプタンはにんにくの有効成分であるアリシンが分解して発生します。そのアリルメルカプタンはすぐに化学反応を起こしてジアリルジスルフィドになってしまいます。しかし、ジアリルジスルフィドが体内に入ると代謝されて再度アリルメルカプタンが発生します。
つまり、アリルメルカプタンはにんにくの口臭となるまでに二度発生します。
詳しくご説明すると、にんにくに含まれるアリイン(及びメチイン・イソアリイン)は調理時に切ったり潰したりすることで酵素アリナーゼと反応し、アリシンに変化します。アリシンは反応性が高い物質なので分解したり他の物質と反応して様々な物質に変化していきます。その内の一つがアリルメルカプタンです。
アリルメルカプタンはアリシンが分解して発生します。これが第一の発生ですがその存在は長続きしません。
発生したアリルメルカプタンはアリインがアリシンに変化する際に発生するアリルスルフィン酸と反応してすぐにジアリルジスルフィド(DADS)になります。ジアリルジスルフィドはニンニクの香ばしい匂いの元と言われます。
そして、にんにくを食べると体内のグルタチオンによってジアリルジスルフィドが還元され、アリルメルカプタンが再度発生します。これが第二の発生です。
このアリルメルカプタンは消化器官や口腔内で発生するためにんにくを食べた直後の口臭として認識されています。
アリルメルカプタンの発生過程
アリルメルカプタンの発生過程を大まかに纏めると以下のようになります。
アリイン
↓
アリシン
↓
アリルメルカプタン(第一の発生)
↓
ジアリルジスルフィド
↓
(体内)
↓
アリルメルカプタン(第二の発生)
ニンニクにおけるアリルメルカプタンの性質
にんにくにおけるアリルメルカプタンは以下の性質を持っています。
にんにくを食べた直後のクサい臭い
アリルメルカプタンは一般的ににんにくを食べた直後のクサい口臭の主要因とされています。
香り成分でもある
アリルメルカプタンは微量であれば香り成分にもなりえます。料理におけるにんにくの香ばしい匂いはジアリルジスルフィドによるものですが、アリルメルカプタンもその要因とする見解もあります。
臭いの発生源は口腔内と消化器官
アリルメルカプタンは口の中のニンニクの残留物から発生するものと、消化時に胃腸から発生するものがあります。前者は口の臭いとして、後者は息として臭います。
臭いは長続きしない
アリルメルカプタンの臭いは長続きしません。多く実験で1~2時間で臭いが無くなることが確認されています。それ故、ニンニクのクサい臭いの正体は別にあります。
比較的消臭しやすい
アリルメルカプタンの臭いは主に口臭であるため、歯磨きなどで口腔内をきれいにし、マスキング(他の臭いをかぶせる)することでかなり抑えることができます。
アリルメチルスルフィド(AMS)に変化する
アリルメルカプタンはニンニクの臭いの脇役ですが、体内で代謝が進むとニンニクの臭いの主役であるアリルメチルスルフィド(AMS)に変化します。(アリルメチルスルフィドの詳細はこちら)
アリルメルカプタンの臭いを消す方法
アリルメルカプタンの臭いは1~2時間で消えるので放っておいてもよいと思われるかもしれません。しかし、後にニンニク臭の元凶であるアリルメチルスルフィドに変化することを考えれば、アリルメルカプタンの段階で少しでも消臭しておくことはニンニク臭全体を軽減する効果的な方法と言えます。
アリルメルカプタンの臭いを消す方法には以下のようなものがあります。
1.口の中の残留ニンニクを取り除く
アリルメルカプタンは消化器官を通じて息として発せられるものもありますが、実験結果などを見ると大部分は口腔内(口の中)から発せられていることが分かります。
これは口の中ににんにくのカスなど残留物が残っていることが原因とされます。その為、歯磨きや舌磨きでその残留物を掃除することがアリルメルカプタンの臭いを防ぐもっとも効果的な方法と言えます。
2.紅茶を飲む
アリルメルカプタンの臭いを消す研究はあまり多くないのですが、紅茶にはアリルメルカプタンの消臭効果があることが確認されています。
お茶類にはカテキンやクロロゲン酸などのポリフェノールが含まれており、これらのポリフェノールに消臭効果があることは有名ですが、紅茶はその中でも消臭効果が高いことで知られています。
アリルメルカプタンの消臭においてもお茶類の中では紅茶が一番効果が高いようです。ただし、食後すぐに飲む必要があります。できればニンニクを食べると同時に飲むのが効果的ですが、にんにく料理が台無しになってしまうので現実的ではないでしょう。
3.烏龍茶(ウーロン茶)を飲む
紅茶同様、ポリフェノールの作用でアリルメルカプタンの臭いを消します。実験結果では紅茶に次いで消臭効果があったのが烏龍茶でした。
烏龍茶であればにんにくと一緒に食べても味が損なわれませんし、にんにくの臭いの元凶であるアリルメチルスルフィドの臭いを抑制する効果もあるので、一番のお薦めはこの烏龍茶です。
尚、緑茶にも消臭作用があることが知られていますが、緑茶に含まれるアスコルビン酸がポリフェノールの消臭効果を阻害してしまうのであまり効果がないようです。
4.野菜を食べる
詳しい実験結果を確認することはできませんでしたが、論文などには多くの生野菜がアリルメルカプタンの臭いを抑制することが確認されているようです。生野菜にもポリフェノールが含まれているためです。
茹でた野菜でも効果は確認されていますが、その場合の茹で時間は2分程度で、それ以上ですとポリフェノールが失われる傾向が強いのであまり茹でたものでは効果が期待できません。
5.果物を食べる
生野菜と同じように多くの果物にもアリルメルカプタンの臭いを抑制する効果があるようです。
6.マスキングする
マスキングとは別の臭いをかぶせることで、元の悪臭を感じさせなくする消臭方法です。
具体的な方法としては「ガムを噛む」「アメをなめる」「マウスウォッシュなどの洗口液を使う」「ブレスケアなどの息清涼剤を使う」などの方法があります。
アリルメルカプタンの悪臭は主に口腔内や息として発せられるのでマスキングの効果は高いと言えます。しかし、アリルメチルスルフィドの発生は減少させないので効果は一時的です。
まとめ
前述したことを考慮するとアリルメルカプタンの臭いを消す現実的かつ効果的な方法は次のようなものと考えられます。
- にんにくと一緒に野菜をたくさん食べる。
- 食事中は烏龍茶を頻繁に飲む。
- デザートに果物を食べる。(できれば烏龍茶もたくさん飲む)
- 食後はすぐに歯磨き、舌磨きをする。
- マウスウォッシュやブレスケアを使う。
- ガムを噛んでマスキング。
これでアリルメルカプタンの臭いはかなり抑えられるはずです。
また、具体的な実験データはありませんが、理論的には「一般的ににんにくの臭いを消す」と言われる方法はアリルメルカプタンの臭いを消すのにも有効と思われます。興味があればこちら(にんにくの臭いを消す11の方法)も併せてご覧ください。
アリルメルカプタンの健康効果や効能
アリルメルカプタンは基本的には有害物質なので健康のために利用するものではありませんが、敢えてあげるとすれば「コレステロール値を下げる」という効果が期待できます。
ある研究報告によるとHepG2(研究用の肝細胞)を使った実験でアリルメルカプタンはコレステロール合成と分泌を減少させることが確認されています。
実験によるとこの細胞のコレステロール合成を50%抑制するのに必要なアリルメルカプタンの濃度は約25μg/mLであったことからかなりのコレステロール抑制が期待できると言えます。
ただし、アリルメルカプタンは細胞を殺傷する有害物で、同様の実験でも125μg/mLの濃度を越えた場合は細胞の生存率が50%までに減少していることが確認されています。
危険性が高いので医薬品での利用等はあるかもしれませんが、我々一般人が健康目的で利用を考えるものでは無さそうです。
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