なぜ、にんにくは臭い(くさい)のか?
にんにくを食べた後の口臭や体臭は臭い。これは紛れもない事実です。「食後のニオイが気になる食べ物は?」という問いがあれば、真っ先に浮かぶのはニンニクでしょう。
しかし、なぜ、にんにくは臭いのでしょうか?
それは、にんにくは腐敗臭に似た硫黄系の物質を産出するからです。
しかし、色々調べてみるとニンニクの臭いは非常に繊細かつ複雑、そして強力であることが分かります。
このページをご覧になっている方は、にんにくの臭いに困り、早く消したいと思っている人も多いのではないでしょうか?
にんにくの臭いのことを詳しく知るということは、にんにくの臭いを効果的に消すことにもつながりますのでご覧ください。
また、単ににんにくの臭いの消す方法を知りたいかたはこちら(にんにくの臭いを消す11の方法)をご覧ください。
にんにくの臭いの原因
私達は単純に「にんにくは臭い」と感じますが、実際にはにんにくの臭いにはいくつかの種類があり、それらは時間とともに変化する性質を持っています。
にんにくの臭いは傷つけることで初めて発生する
ニンニクの「臭さ」はにんにくに含まれるアリインという成分が元になっています。ただしアリイン自体は無臭です。
にんにくが調理などで傷つけられるとアリインが同じくにんにくに含まれるアリナーゼという酵素と反応してアリシンという物質に変化します。その時からあのにんにく特有の臭いが生じ始めます。
そのため、一般的ににんにくの臭いの正体はアリシンと言われています。
尚、にんにくの片鱗(にんにくのかけら)丸ごとの状態では臭いはしません。
余談ですが、この現象はにんにくが外的から身を守るためのものです。アリシンが持つあの独特のにおいや抗菌・抗カビの効能は虫や細菌などがにんにくに侵入したり、かじったりして攻撃した時に発生し、それらを撃退する防御手段なのです。
ニンニクの臭いは複数あり、そして変化する
にんにくの臭いの正体はアリシンということもできますが、実際はアリシンは変化しやすい物質であるため時間とともに変化したり、他の物質を発生させたりします。それと共に臭いの性質も変化していきます。
つまり、にんにくの臭いの正体は時間とともに変化していくわけです。そして、臭いの変化を追っていくと本当のにんにくの正体が分かってきます。
それでは、にんにくの臭いの変化を時系列的に見ていきましょう。
1.にんにくを調理する時
調理時に切ったり潰したりしてにんにくを傷つけた瞬間にニンニクに含まれるアリインとアリナーゼが反応して刺激臭のあるアリシンが産出されます。
それと同時にピルビン酸やアンモニアなどの臭い成分も産出されます。ピルビン酸は酸っぱい匂い、アンモニアは汗や尿の匂いの元です。
この段階では、この3つの臭い成分が混ざったツーンとした刺激臭を感じますが、まだクサいというほどではありません。
尚、にんにくに含まれるアリイン全てがアリシンになるわけではありません。あくまで傷つけた場所にあるアリインのみがアリシンになります。
調理段階で残ったアリインは料理として口に入れて噛むなどをした時に同様の現象が発生します。
2.調理から食べる前まで
調理段階で産出されたアリシンは、不安定な物質なため色々な物質に反応してすぐにアリルスルフィド類、アホエン類、ビニルジチイン類など多くの物質に変化していきます。
この中でにんにくの特徴的なニオイとなるのがアリルスルフィド類です。
<アリル>というのはアリル化合物のことですがその語源はにんにくの刺激臭から来ており、<スルフィド>というのは硫黄化合物を意味し、いわゆるイオウ臭さを持つ性質があります。
つまり<アリルスルフィド>とは、「にんにくの刺激臭と硫黄の臭さを持つ物質」という正ににんにくの臭さ象徴する名称なのです。
このアリルスルフィド類にはいくつもの種類があり、更にそれらは反応しやすい物質であるため様々な別のアリルスルフィド類へと変化していきます。
そして、それぞれのアリルスルフィド類は少しずつ性質が異なるため、においも微妙に異なってきます
この段階で発生するアリルスルフィド類の代表はジアリルジスルフィド(DADS)です。
ジアリルジスルフィドはクサいというよりは、香ばしい良いニオイがします。にんにく料理の食欲をそそるニオイの元はジアリルジスルフィドと言われます。
3.にんにく料理を食べた時
にんにく料理を食べた瞬間に”あの”にんにくの臭いが発生し始めます。
まず、にんにく内に残っていたアリインが噛み砕かれることにより1.の「にんにくを調理する時」と同様の刺激臭を発生させます。
さらに既に産出されているジアリルジスルフィドが体内のグルタチオンと反応(還元)し、アリルメルカプタンという物質を発生させます。
アリルメルカプタンは微量であれば良い香りと感じる人もいるようですが、基本的には悪臭です。
まだニオイはそれ程強くはありませんが、この段階からこれらの臭いが混ざったいわゆるにんにくクサさが放出されます。
4.にんにくを食べてから1~2時間
にんにくを食べてから1~2時間の間は口臭がキツくなります。
口の中に残ったにんにくの残留物質が揮発してにんにくのニオイを撒き散らします。この時の口の中では、前述したようなアリルスルフィド類が変化しながらニオイを発するので、刺激臭や香ばしい匂い、そして硫黄系特有の腐敗臭が混ざった複雑な臭いとなっています。
更に、にんにくの残留物等は一般的な口臭の元となるメチルメルカプタンや硫化水素を増加させるため、それらの臭いも混ざった臭いとなります。
また、この時間帯は食べたにんにくが胃で消化されており、そこで発生したアリルメルカプタンが逆流して息として吐き出されます。
このように、にんにくを食べてから1~2時間はアリルメルカプタンを中心に何種類もの臭い物質が大量に口から発せられることになります。尚、この時間帯の特徴はニオイのほとんどが口臭であることです。
しかし、この臭いは大体2時間を過ぎた辺りから弱まり、3時間ぐらいになるとほぼ臭いは消えてきます。
5.にんにくを食べてから2時間後から翌日
にんにくを食べた後のクサい口臭が落ち着いてくる1時間後ぐらいから、徐々に別のニオイがしてきます。
にんにくの臭いの恐ろしさはここから始まります。
体内で発生したアリルメルカプタンは小腸に入る頃、更に姿を変えてアリルメチルスルフィド(AMS)という<ニンニク臭>の最強物質になります。
アリルメチルスルフィドこそにんにくのクサい臭いの本当の原因なのです。
アリルメチルスルフィドは反応しにくい物質であるため殆ど代謝されません。そのため腸内でどんどん増産されていきます。
そしてアリルメチルスルフィドは腸から体内に吸収され、血管を通じて体中に蔓延していきます。
そうすると、アリルメチルスルフィドは肺のガス交換によって息の一部となり、口臭として放出されます。
更に、毛細血管を通じて体中の毛穴からもアリルメチルスルフィドは放出されます。この時、体内や毛穴の老廃物と混ざることにより、より一層キツい臭いとなります。
また、おならやウンチにも当然このアリルメチルスルフィドが含まれるため、通常よりくさい臭いが発せられます。
このように、アリルメチルスルフィドの臭いは強烈な体臭となって体中から放出されるのです。この臭いはにんにくを食べてから6時間後ぐらいにピークを迎え、その後16~48時間程度続くと言われます。翌日までにんにくの臭いが続くのはこの物質が原因なのです。
6.にんにくを食べてから30時間後
にんにくの臭いはアリルメチルスルフィドの臭いが無くなるとともに消えると考えられていますが、ある実験によるとにんにくを食べてから30時間後にジメチルスルフィドの臭気がピークになることが確認されています。
ジメチルスルフィドは微量であれば「磯の香り」と言われますが、基本的には「キャベツが腐った時の臭い」として知られている悪臭です。
さすがにニンニクの臭いも30時間後はかなり収まることから、ジメチルスルフィドの発生量はそれほど多くないと考えられますが、この時間帯まで臭い物質を変化させながら放出するにんにくの臭いパワーには驚くばかりです。
にんにくの臭いは大きく二つ分けられる
前述のようににんにくの臭いは複数あり、そして時間とともに変化していきます。細かく見るとその内容は複雑ですが、大まかにすると2つ分けられます。それは以下の2つです。
- にんにくを食べた直後の臭い
- にんにくを食べて1時間後ぐらいから匂ってくる臭い
にんにくの臭いに気をつけていると、にんにくを食べた直後に臭い(1番目の臭い)が発生します。そして、その臭いは1~2時間後ぐらいに一旦弱まり、暫くすると別の強烈な臭い(2番目の臭い)が体中から発せられることが分かると思います。
この二つの臭いの性質を整理すると次のようになります。ニンニクの臭い対策をするような場合は、両者の性質を把握しておくことが必要でしょう。
にんにくを食べた直後の臭い
- 臭い物質はアリルメルカプタンが中心。
- 主に口臭として臭う。
- 口腔内洗浄やガムやアメなどの利用で比較的消臭しやすい。
- ほっといても1~2時間で臭いが収まる。
にんにくを食べて1時間後ぐらいから匂ってくる臭い
- 臭い物質はアリルメチルスルフィドが中心。
- 臭いは最初のものよりキツい。
- 口臭はもちろん、体臭として体全体から臭う。
- 消臭しにくい。
- 臭いは翌日~2日間程度続く。
にんにくの臭いの特徴
にんにくの臭いは単に「臭いが強い」というだけではありません。にんにくの臭いを強烈に印象づける特徴がいくつかあるのです。
「なぜ、にんにくは臭いのか?」という問いに科学的に答えるならば「アリルメチルスルフィドが原因」となりますが、感覚的には「にんにくの臭いの特徴」こそが腑に落ちる答えとなるでしょう。
その特徴とは、、、
1.長時間臭い
にんにくの「クサさ」の悪印象を増大させているものの一つに「においが続く時間」があります。
前述した通り、にんにくの臭いは変化しながら長時間続き、完全に無くなるまでには(量にもよりますが)2日間かかると言われます。
クサい食べ物は他にもありますが、これだけ長時間におう食べ物は他にはありません。
2.翌日の方が臭い
にんにくは長時間クサいだけではありません。翌日の方が臭いというやっかいな特徴があります。
前述した通り、翌日の臭いは主にアリルメチルスルフィドが原因です。アリルメチルスルフィドは単体でも臭いは強いですが、一晩寝ることで体から排出される汗や老廃物と混ざり、強烈な体臭となって放出されます。
また、周りの人もにんにくを食べた後であれば「にんにくのニオイ」ということで覚悟できますが、翌日の爽やかな日中に、しかも不意打ちで「強烈な体臭」を嗅ぐことは、感覚として臭さが増大する傾向にあります。
3.「体中」から臭う
もう一つにんにくの「クサさ」を決定づけているものがあります。それは「においが発生する場所」です。
アリルメルカプタンを中心とする最初のニンニクの臭いは主に「口臭」としてにおいます。しかし、次のアリルメチルスルフィドの臭いは口臭はもちろんのこと、体全体から「体臭」としてにおってきます。
この状態になると近づいただけで臭さを感じるようになります。その印象は「にんにくが臭い」ではなく「アナタが臭い」となるのです。
4.においが消しにくい
にんにくの臭いはなかなか消せません。ガムやマウススプレー程度ではにんにくの臭いには全く歯が立ちません。
これは前述した通り、ニンニクの臭いは口臭だけでなく体臭として、そして長時間継続して発せられるからです。
一般的な消臭剤やデオドラントも効果が無いわけではありませんが、所詮臭いの一部を一時的に抑える程度です。
また、メインのにんにくの臭いであるアリルメチルスルフィドは構造的に安定しているため消臭が難しい物質なのです。実際にアリルメチルスルフィドをターゲットとした消臭剤はほとんどありません。
主なニンニクの臭い成分
最後に代表的な臭い物質をいくつか個別にご紹介します。
ジアリルジスルフィド(DADS)
ジアリルジスルフィドはにんにくの代表的なニオイ成分です。アリシンの多くはジアリルジスルフィドに変化し、にんにく特有の刺激臭を発します。
ジアリルジスルフィドは多量であれば不快臭となりますが、基本的には良い香りに分類され、にんにくの食欲をそそるスパイシーな香りはこのジアリルジスルフィドによるものです。
また、ジアリルジスルフィドには解毒作用や抗菌作用、抗酸化作用などがあり、にんにくの持つ効能や効果の要素でもあります。
アリルメルカプタン
アリルメルカプタンはにんにくを食べた直後の不快な口臭の主要因です。にんにくを食べた直後に「クサい」と感じるのは、主にこのアリルメルカプタンの臭いです。
アリルメルカプタンはジアリルジスルフィドが体内で代謝分解してできる物質です。揮発性成分なのでにんにくを食べた後にクサい息となって口から出てきます。
しかし、アリルメルカプタンは消化や代謝の過程で消滅するため1~2時間もすればニオイはかなり無くなり、翌日まで臭うということは殆どありません。
アリルメチルスルフィド(AMS)
アリルメチルスルフィドはニンニクの臭いを語る上で非常に重要な物質です。大雑把に言ってしまうとニンニク臭の正体はこのアリルメチルスルフィドにあると言っても過言ではありません。
アリルメチルスルフィドは体内のアリルメルカプタンが更に代謝されて発生する物質です。代謝されるのに時間がかかるため、にんにくを食べた直後にこの物質のニオイはしません。しかし、1時間ぐらい経つとニオイが発生し始め、その後16時間以上もニオイが続きます。しかも、その臭いは体中から発せられます。
にんにくの臭いが翌日まで続くのはこの物質が原因であり、にんにくのクサさを強く印象付けているのは、このアリルメチルスルフィドなのです。
メチルメルカプタン
メチルメルカプタンは後述する硫化水素と共に一般的な悪臭を代表する成分です。身の回りのクサいものには大体このメチルメルカプタンが含まれています。例えば「口がくさい人の息」「おなら」「便」「ゴミ」「腐敗物」などです。
そのためメチルメルカプタンは悪臭を評価する指標になることが多く、多くの消臭剤等はこのメチルメルカプタンの臭いを防ぐことを目的としています。
メチルメルカプタンの臭いはよく「腐ったタマネギの臭い」と表現されることが多く、事実ネギ属植物の臭さの代表格でもあります。
にんにくにメチルメルカプタンはあまり含まれていませんが、にんにくを食べると口内のメチルメルカプタンが増加することが確認されています。
アリルメルカプタンと共ににんにくを食べた直後のニンニク臭の一因となりますが、どちらかというと脇役と言える臭いで、メチルメルカプタンを消臭してもにんにくの臭いは消せません。
硫化水素
硫化水素はメチルメルカプタンと同様、クサいものには大体含まれている悪臭の代表成分です。いわゆる「イオウ臭さ」とは硫化水素の臭いであり、「腐ったタマゴの臭い」と表現されます。
硫化水素は強烈なにおいで、メチルメルカプタン同様にんにくを食べた後に増加することが確認されていますが、やはり脇役レベルのにおいで、硫化水素のにおいを消してもニンニク臭を消すことはできません。
アンモニア
アンモニアはアリインがアリナーゼと反応してアリシンが生成される時に発生する物質です。
アンモニアには刺激臭があり、量が多いと腐敗臭のようなニオイを発し毒性も持ちますが、少量であれば料理の香り付けになります。
アンモニアもどちらかと言うとジアリルジスルフィドと同様にニンニクの良い香りを構成する成分と言えます。大量にニンニクを食べた時や他の臭い成分と合わさった時は悪臭の原因となりますが基本的には口臭にはあまり影響しません。
ピルビン酸
ピルビン酸もアリシンが生成される際にアンモニアと共に発生する物質で、臭いの性質もアンモニアに似ています。
ツンとした酸っぱい刺激臭があるので、他の臭いと混ざると悪臭の元となりますが、基本的にはニンニクの良い香りを構成する成分の一つと言えます。
その他
その他には以下のような物質がにんにくの臭いの元となっています。
アリルメチルジスルフィド
アリルジスルフィド
ジアリルスルフィド
ジメチルスルフィド
etc.
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